今さら、なんてバカ言っちゃいけません。常に「初めて」を探す、77歳中尾ミエの貪欲を重ねる日々
100歳を超えて生きる。そんな暮らしが当たり前になるこれからの時代。残りの人生、何をしたいか。自分にとっての幸せとは何か。100歳まで生きた自分に向けた「手紙」を、福岡ゆかりの方々に、綴ってもらいました。どんな想いが込められたのか、真意を探ります。
◆#100レター vol.3 中尾ミエさん
◆「長く」ではなく「楽しく」生きる
——現在77歳のミエさん、23年後にあたる100歳のご自分にお手紙を書いていただきました。
そもそも、100歳まで生きていたいなんて思っていないのよ。長生き自体には興味がありません
——長生きを目標にはされていない?
ただ生きてるだけじゃ楽しくないじゃない。100歳まで生きたいわけではないし、100歳まで生きるならば楽しく生きたい、という感じです。
じゃあ何が「楽しい」のかというと、まず、お仕事ですね。頼りにされることがうれしいし、役に立てていると思うと自分を肯定できる。この感覚は年々強くなってきています。
——お手紙にも「役に立てることが幸せ」という言葉がありましたね。
若いときは仕事がしんどいこともあったし、「働かされてる」って意識もあったけれど、年を重ねるごとに仕事ができて幸せだわと思うようになってきました。私は、みんなにアテにされたり感謝されたりしたほうが居心地がいいみたい。
もちろん、いわゆるお金をもらう「仕事」じゃなくてもかまいません。たとえば身内の役に立つことだって立派な仕事。地域で何かするでもいいし、広い意味で「役に立てる自分」でいたいですね。
——若い頃に描いていた70代と、実際のご自分にはギャップがありますか?
それはまったく違います。私が若いときは「還暦を迎えたら社会から遠ざかる」ってイメージだったけれど、実際に60歳になってみたら「まだまだ元気じゃない!」ってびっくりして。社会も変わりましたよね。昔は70歳を過ぎてこんな格好をしてる人なんていなかったし、「いい年して」って価値観が強かったんです。今、私がどんなお洋服を着てもだれからも何も言われないでしょ。いい時代になったなと思います。
◆誰かに嫌われても「私」を貫く
——これまでの人生、「あれは失敗したな」ということはありますか?
過去のことはすぐに忘れます。ただでさえ容量が減ってきてるっていうのに、そんなことで脳みそを使いたくない。
ただ、失敗って「失敗しなきゃわからなかったこと」だから、だれかに指摘されたり叱られたことは大切にしたほうがいいですね。私、今も舞台の後に「よかった!」って褒められると不安になるの。いいところは自分でわかってるし、「あそこを直したほうがいい」って言われたほうがずっとうれしいです。もっとよくなるってことだから。
——率直に物申してくれる人は貴重ですね。ほかに人付き合いで意識されていることはありますか?
楽しんでもらうことかな。今はお仕事もプライベートも関わる人はほとんど年下の方ですが、「年寄りと一緒で面倒くさかったな」なんて1秒でも思われたくない。その人の時間を無駄にするのがイヤだから、たとえ二度と会わないとしても「中尾ミエと仕事ができて楽しかった!」と思っていただけるように努めています。
——ご自分だけでなく、周りにも楽しくいてほしいと。
自分の哲学みたいなものです。デビューしてからずっと、私の仕事は人に楽しんでもらうことですから。
——今「哲学」という言葉が出ましたが、ミエさんは時代に先んじてグレイヘアーを取り入れたり事実婚を選択されたりと、世の「当たり前」よりもご自分の信念を大切にされている印象です。
だって、だれかと同じなら「私」である必要がないでしょう? 若いころはよく「誰みたいになりたいですか?」って質問されたけれど、誰かみたいになったってしょうがない。
それにね、自分を偽って媚びるくらいなら嫌われてもいいと思ってるの。人間にはそれぞれ好みってものがあって、100%みんなに好かれることはありえないんだから。好意を持ってくれる方が半分でもいたら、それで十分です。
ただ、私を受け入れていただけるのであれば、それに報いるためにも最大限の努力をします。それが、私が健康や美を維持する理由のひとつです。
——毎日欠かさずラジオ体操や筋トレ、懸垂(けんすい)などに取り組んで身体を鍛えていると伺いました。
そう。努力は裏切らないし、ちゃんと返ってきますからね。自分の変化を見るのはすごく楽しいですよ。
——たとえば、5年前より今のほうが「いい身体」ですか?
ええ。だって、毎日続けてきましたから。努力をつづければ結果も出るし、周りも認めてくれます。逆に、「面倒くさいな」ってサボったら身体にすぐ現れるし、後ろめたくて気分もよくない。やっぱり、いい思いしたいんだったら努力しないとね。自分のできる範囲で。
——失礼ですが、衰えは感じることはありますか?
それはもちろんありますよ。でも、若くいつづけるなんて不可能なんだからそれは当然。維持できる部分は維持して、衰えは認めて、その中で楽しく生きられればいいんです。
そういえば、50代で始めた運転は最近やめました。楽しく生きるけれど、人に迷惑をかけることはしない。高齢者だということを受け入れつつ自分にできることは貪欲に、というバランスが大事ですね。
◆人生に「楽しい」と「新しい」を!
——ミエさんは50歳で水泳を始めて世界大会に出たり、70代では舞台で空中ブランコに挑戦したりと、新しいことにのぞむ姿勢が印象的です。
去年はDIYを始めました。私は仕事を始めたのが15歳で人より少し早いけれど、それでも社会に出てまだ62年。その間にした経験なんてほんの少しで、世の中には知らないことがまだまだいっぱいあります。ひとつでもふたつでも、おもしろいことを人生に増やしたいですね。
私の父は93歳まで生きたんだけども、晩年は「やることがない」ってずっと言っていたの。身体は元気でも、ヒマであることはとてもつらそうだった。反面教師じゃないけど、教訓にはなっています。
——仕事一筋で生きてきた男性は、そういう方が多いと言われていますね。
そう。だから周りがお膳立てしてあげてでも、外に連れ出してあげたほうがいいと思う。活動してみれば楽しくなってくると思いますよ。興味を持つのはタダなんだから、「今さら」なんてバカ言っちゃいけません。命がもったいない!
——最後に。ミエさんが100歳になるころ、どんな社会になっていてほしいですか?
手紙にも書いたけれど、高齢者がもっと働く社会かな。100歳まで生きる時代がくるんだから、一度リタイアした後にも働ける場を作ってほしいし、みんなも元気なうちにもっと動こうよって。私を見て、そう思ってくださる方がいたらうれしいですね。
<Profile>
歌手/俳優
中尾ミエ(77)
福岡県出身。デビュー曲「可愛いベイビー」が大ヒット。情報番組『5時に夢中!』(TOKYOMX)の金曜コメンテーターとしてレギュラー出演中。ブロードウェイミュージカル『ピピン』出演。2019年には73歳で週刊誌のグラビアを飾るなど、挑戦を続けている。