女優・予防医学の研究者として活躍!いとうまい子さんに聞く認知症介護の漠然とした不安から抜け出すアクション
女優を続けながら、新しいフィールドで活躍するいとうまい子さん。最近は運動器症候群(通称:ロコモ)を予防するロボットの開発を行うなどで話題を集めています。オリジナリティ溢れる発想をもち、高齢化対策の新しい道筋を作っているいとうさんに人生100年時代の認知症介護に備えるヒントを伺いました。
社会課題の解決に挑む
−将来の不安要素のひとつでもあるロコモについて、私たちがまず知っておくべきことはありますか?
人の筋力は20歳がピーク。「自分の筋力はまだまだ大丈夫」と思っている方も多いかもしれませんが、薄皮を剥がすように毎日衰えていっていることを知っておかないといけません。筋力は落ちるということに目を向け、今から意識して運動をしていないと、60歳くらいになってある日突然歩けなくなったり、階段でつまずくようになったりして初めて「あれ?」となってしまいます。
−いとうさんの開発したロコモ予防の「ロコピョン」※は、AIベンチャーの「エクサウィザーズ」と共同開発をするきっかけにもなったそうですね。
「エクサウィザーズ」が私をフェローとして選んでくださった大きな理由は、社会課題の解決を理念に掲げていたからです。同社の提案するロボットや、予防医療に関するプロジェクトのメインの舞台である高齢者施設において何か役に立ちたいという思いがつながりました。今はAIやロボットの利活用を通じて、介護領域における社会課題解決のために一緒にさまざまな取り組みをしています。
−福岡市は『認知症フレンドリーシティ・プロジェクト※』に取り組んでいます。現在普及啓発を進めている認知症ケア技法「ユマニチュード®」の講座をいとうさんも体験されていますがいかがでしたか?
とても素晴らしいですね。介護するとなった時に、ついビジネスライクにやってしまいがちなところも、思いやりをもって接することが本当に大切であることがわかります。最初に体験した時には、そうか人は長生きをするとこんな悩みを抱えるんだなと。寿命が伸びる一方で認知症になる可能性が増えることに考えが至ってなかったと感じました。この講座を通して、みんなが早くから、認知症の方に対しどう接したらいいのか、もっとよく知っておけたらいいなと思います。
介護の見方を変える心構え
−講座でとくに印象的だったところはありますか?
何度も同じ質問をする認知症の方への接し方を教えてくれています。ただ、「本人を尊重し前向きに声をかけながら介助する」ことは大事だとわかっているのですが、やはり両親や伴侶をケアするとなった場合に同じようにできるのかと考えてしまいました。今まで長年自分が見てきた人が違う人格になってしまう、その喪失感は耐え難いものです。そうなった時に「何でわからないの?さっきも聞いたよね」と言わずにできるのかなと率直に思いました。
−そうですね。市民向けの講座をご覧になったとのことでしたが、そういった問題点もあり家族・介護者向け講座を別で設けています。そちらでは個々の問題への対応策を一緒に考える時間もあります。
色んなことを知っていて、何でもサポートしてくれていた大切な人が、ある時から何もできなくなる。そんな日が誰にでも訪れるものだと思います。だから愕然とした気持ちをひとつ前に進めていくためにも、介護する前の心構えまで知っておきたいですね。何も知らない赤ちゃんから何でもわかる大人になって、記憶の限界と共に徐々に小さな子どものように戻っていく。これが人生100年時代の人の仕組みなのだと理解することができていれば、介護はもっとやさしくできるのかもしれないと見ていてふと思いました。
「ユマニチュード」を参考にアレンジする
−「ユマニチュード」はフランスの方の発案ですが、海外の介護事情で進んでいる点は何だと思いますか?
人に手を差し伸べる社会づくり、障がい者に対してやさしい環境が、フランスは日本より整っているように思います。日本は少し前まで、生活に不自由のある人が家にずっといるようなところがありましたよね。海外は障がいがあっても、積極的に外へ出ようという社会の雰囲気があります。みんなで困った人をサポートする体制ができていたから、ケアにおいても新しい技法が開発されたのかもしれません。
−文化の違いで介護のケアにも差が出てきているんですね。
日本には昔から「人に迷惑をかけたくない」という考え方があります。価値観や文化の違い、国の支援制度なども異なります。日本はまだ社会全体で支援をする土台づくりの段階でもありますね。
−今後「ユマニチュード」が広がっていくにはどうしたらいいですか?
ケア技法ではあるのですが、もっと簡単に知れるといいなと思います。「高齢者や認知症の方にはこんな風に手を差し伸べましょう」とか、「こういうことでいいのね」と思えるくらいふんわりとしたイメージで広がっていくといい気がしています。わかりやすい動画にまとめて病院の待合室とかで流しておいてもらえたら、もっと興味をもってもらえるのではないでしょうか。
あと、これは父の介護をした実体験からくる考えですが、それぞれ個人で柔軟にアレンジしていくこともポイントだと思っています。実は父が癌で入院中に失語症になってしまったのですが、言葉の出ない父に対し看護師さんは聞こえないと勘違いをして大声で喋り続けていたのです。あの時の父の様子がとても辛そうだったことを思い出しました。
−介護される人それぞれに合った配慮が求められますね。
福岡の団結力で一気に「介護ケアの先進地」へ
−「ユマニチュード」を自分らしく取り入れるにはどうしたらいいでしょうか?
「ユマニチュード」は良い人間関係を作るコミュニケーション方法のひとつとして、まずは試してみて、そうするともっと、その人に合った穏やかなケアもできると思います。フランスの人はつねに“ハグ&キス”の文化があるでしょう。日本人にはその距離近すぎない〜?とも思いますよね(笑)。一人ひとりにとって心地よい距離感もあるはずです。試しながら、色々模索していけたらいいのかなと思います。
−それでは最後に、福岡市らしい認知症の人にもやさしいまちづくりについてメッセージをお願いします。
芸能人でもそうなんですが、福岡の人は本当にみんな団結力がすごいんです。『認知症フレンドリーシティ・プロジェクト』も福岡だからできたのかもしれないと思っています。「年をとっても自分らしく、できるだけ外に出たいよね」「そうだそうだ」と声をあげ、すぐ形にできる人がたくさんいるまちでうらやましいです。だから「ユマニチュード」も”メイドイン福岡”くらいみんなでより良くしていけたらいいですよね!
福岡市は、認知症になってからもその人の能力に応じて働く環境を支援してくれる。そういうところも素敵だと思いますし、今後も色々と楽しみにしています。